CHI 2019 : When Do People Trust Their Social Groups ? を読んだ
Facebook のグループ機能に関するデータ解析の論文を最近読みました
自分的要約
- Facebookのモチベーションとしては、ユーザが安心して使うための信頼できるグループを増やしたい。じゃあ信頼できるグループってどんなのか?から入る
- グループを使用している10,000人のFacebookユーザをサンプリングし、アンケートを行う。妥当な回答を得た6,383人を対象に分析を行う
- アンケートとは、ユーザ自体の他人への態度(他人を信頼することができる気質かどうかなど)に関するアンケートと使っているグループでの態度に関するアンケートを実施し、グループの信頼スコアを定め、定量的に分析する
- これらのアンケートにより得られたデータとFacebookの保有する観測データから構成される特徴量をもとに、信頼スコアを予測する回帰モデルを作り、何が信頼に効くかを評価する
- 結果的には、(1)個人の態度は重要、(2)グループのサイズが小さくて、昔から使われてて、均質的なグループが重要 (3)グループ内の人のネットワーク構造は重要であることを示した
- 得られた結果を使って、Facebookがプラットフォーマーの立場として、信頼できるグループ作りに役立てる
以下は、論文の流れにそってつらつらと説明する。
背景知識
- グループの中での信頼関係というのは、メンバーの満足度もあがるし、メンバーのパフォーマンスも上がるし、対立も減らせるし、良いことづくめ(当たり前なんだがきちんと参考論文を引用しているのがすごい)
- Facebookでは、14億人がGroupを毎月使っている
- 関連研究では、個人の一般的な他人を信頼するかの傾向が、特定のグループにおける信頼に影響すると言っている。グループといっても構成される人によるという話。
- 一般的には、ダンバー数150を超えると、認知限界がきて維持が難しくなる(らしい)
過去の研究サーベイがかなり充実していたので、また興味があるときに読むと良さそうです。
データとサーベイ
まずユーザは以下のようにサンプリングしている
- グループをアクティブに使っているUSの10,000人をサンプリング
- グループは5人以上のグループでかつ、28日間に1つ以上の何らかのやり取りが観測されたものを使っている
- 多少のサンプリングバイアス(性別や年齢)が入ってしまったらしい
これらのユーザにサーベイ(アンケート)を広告経由で招待して実施。大項目としては、(1) 個人の他人への態度 と (2) 所属しているグループがどれだけ信頼できるかを質問している。 質問内容は下記の表のとおり。ざっくりいうと、人を信頼する派か?リスクを取るタイプか?など。どうやら、World Value Surveyという何か標準化されているものを使って質問を作ったらしい。こういうのいつか参考になるかもしれない。5段階のリッカート尺度で回答してデータを集める。
(ちなみに、個人に関する情報やグループ内のポストはすべて匿名化されており、このサーベイを実施ことも厳しく監査されてる様子)
別途、グループはどういうタイプのものが多いかもアンケートを取っている。カテゴリは以前Facebookが調査したものを使っている。結果としては、89%が以下の5つのグループに該当するらしい
• Close friends and family (e.g., extended family) -> 20%
• Education/Work/Professional (e.g., college, job)
• Interest-based (e.g., hobby, book club, sports) -> 34%
• Lifestyle/Identity-based (e.g., health, faith, parenting)
• Location-based (e.g., neighborhood/local organization)
アプローチ
- アンケートデータと行動ログ(like数や使用時間など)を特徴量として使う
- 10,000人からアンケートが妥当でかつ、行動ログと合わない人などを除いて、6,383人までデータをサンプルを落としている
- 手法は、オーソドックスに重回帰分析とランダムフォレストとロジスティク回帰を使っている。特徴量の追加を繰り返すことで、決定係数の改善幅を見ていくスタイル
結果
Resultsの章はかなり事細かく記載している。CHI論文らしい感じ。
アンケート項目の基本統計量やアンケート間の相関値を確認する(Table 2)と、グループに対するアンケート(下表)は高い相関を示していることがわかる。
その結果を踏まえて、目的変数となるグループの信頼スコアは、グループに関する4つのアンケート内容のスコアの平均値として使う(といっても、あとから別々にも評価している)
まず、「個人の他人への態度」についてのアンケートの特徴量だけで予測できるかをやってみる。Table 3が結果。
結果をみると、「個人の他人への態度」についてのアンケートの特徴量全部入りで決定係数0.14まで上昇している。そもそも性格的に人を信じるタイプかどうかということだろうか。
ここから、Facebookお手製の特徴量をどんどん入れて決定係数を改善していく。それらの特徴量をまとめているのが、Table 4。
まず1つ目のグループに関する基本的な特徴量を入れると、決定係数が0.08増加したと報告している。
最も効いた特徴量はグループサイズ。それと、グループがPublicかPrivate(FacebookでいうSecretとClose Group)であること。グループサイズは多きすぎる知らない人増えそうだし、PrivateグループはPublicよりは見られないからある程度の安心はあるよねと納得できる。
これらの特徴量で信頼スコアがどう変わるか図示したのが下の図(Figure 1)。
disposition to trust (信頼への気質)によって、信頼スコアの低下の傾きの大きさが違う結果を示していた。この値が低い人ほど、大きく降下していくことを示している。この結果がでても、個人の気質はコントロールできないし、どうして制御するのかは難しい問題である
2つ目にグループのカテゴリに関する特徴量を入れる。
グループの5つのカテゴリの各信頼スコアをみてみる(Figure 2)と「Close friends and family」が高い結果が出ていて、直感的にも正しい。このようなグループカテゴリを特徴量としていれると、決定係数が0.05増加したと報告している。
3つ目にグループのアクティブ度合い。
サーベイに使った28日間のグループ内でのアクティビティ(滞在時間、投稿数、Likeの数、コメント数など)の平均値を特徴として入れると、決定係数が0.04増加したらと報告している。グループ内での交流が盛んなほど信頼できるグループだよねという直感的にも正しい。
4つ目にHomogeneityとhomophily の特徴量を入れる。
Homogeneity(均一性)は、グループ内に所属する人が互いにどれだけ似ているかを測る。論文では、性別のエントロピーや年齢の標準偏差を計算している。homophily (同類性)は個々の人がグループ内の他人にどれだけ似ているかを測る。論文では、性別や年齢をビン化した距離のアプローチを使っている。
これらを特徴としていれたが、あまり改善はなかったと報告している。性別や年齢がバラけていても、信頼スコアには寄与しないのは、家族グループとかは完全にそうだしなーという感想なのでそう言われたらそうな気もします。
最後の5つ目の特徴量として、Network structureの特徴量を入れる。
これはいろいろと工夫した5種類ほどの特徴量があり、Network density(グループ内のメンバー間で友達となっている数の合計を全組み合わせ数で割った数)やpaticular degree centrality(メンバーが持っている友達の数をグループサイズで正規化したもの)など。このNetwork特徴が最も決定係数を改善していて、決定係数を0.10も改善したと報告している。だれもお互いに知らない素なグループよりは、密にあるほうが良いというのは直感的であるが、一番効くというのは驚いた。
最終的にすべての特徴量を入れて、決定係数が0.26、MSEが0.53まで精度をあげている。さらに追加実験で、観測データのみ(アンケートデータは使わずに)でモデルを組んだところ、決定係数が0.15、MSEが0.59になったと報告している。アンケートデータは将来に渡って使えるとは限らないので、こういうふうにロバスト性をチェックするやり方はとても良い。
Figure 4に各特徴量の重要度をまとめている。重要度は計算したい特徴量を抜いて、MSEがどれだけ悪くなってしまうかの比率で定義している。Network Structureの特徴を抜くと、22%も悪くなってしまうことがわかる。こういう可視化わかりやすいと思うので、機会があったらやってみたい。
アンケートをとってから28日後までに、グループのメンバーサイズやつながりの数が変化があったかをグループの信頼スコア別に評価している。 面白いのは、信頼スコアの高いグループほど、メンバーサイズが増加していないことがわかる。(Figure 5の左) これは、メンバーサイズの増加率が停滞してくることが、信頼スコアにおいては良いグループになってくることを示唆している。こういうのが定量的に現れるのは面白い。
最終的に、得られた結果をFacebookがどう活かすが最後に述べられている。
- プラットフォーマーとしての立場として、Group Adminに信頼スコアを提供するなどを考えている。
- グループの推薦ロジックの改善に役立てる
- グループサイズに応じたり、個人の信頼への気質でロジックを変更できるだろうと考えている
- グループ内の知り合いを探しやすくして、友達のつながりを増やすことなど
感想
個人的には人間の潜在的な心理状態は、サービス提供社が保有するログだけからじゃわからないけど、アンケートも加えると、そのログにラベルが付いた状態で解析できる分、掛け算効果でログの情報量が増える印象。何より分析が面白くなる。このような理想的なストーリーはいつも頭に入れておこうと思う。